恋と、キスと、煙草の香り。
突然の出来事で私は初め何が起こったのかわからなかった。
わかったのは彼が体温がわかるほど近くにいたということ。
煙草の香りが私を包んだ。

彼が遠ざかってから、何が起こったのかを初めて理解した。
彼が私にキスをしたということに。

「え…」

キスをされたことを理解して、彼の体温の残る自分の唇に左手をあてる。

「帰ろう」

そう言って彼は私の右手を取り、来た道を歩き始める。
私は彼に引っ張られるがままに歩き始める。

頭が混乱してなにも考えられない。
まだ唇には彼の熱が残っている。
私はただただ歩く彼の背中を見つめるしかできなかった。
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