恋と、キスと、煙草の香り。

「行ってきます」

次の日。
私はすっかり熱も下がり、会社に向かうため家を出る。
昨日、携帯を見たら颯さんから着信が何件か来ていたけれど、結局連絡できなかった。

会社に行けば必ず颯さんと顔を合わすことになる。
どんな顔をして会ったらいいの。

「環っ!」

私はその声に身体をビクッと震わせる。
まさか迎えに来てるなんて。

私は深呼吸をして声の方へと振り向く。

「颯…さん」

颯さんは心配そうな表情で私の方へ走ってくると、私を抱き締めた。

「連絡ないから心配した」

「…ごめんなさい。熱が高くて…ベッドから動けなかったの」

そう言うと私の心臓が針をさしたようにチクリと痛んだ。

「本当は家までお見舞いに来ようと思ったんだけれど、仕事が夜中まで終わらなくて…今日迎えにきたんだ」

「わざわざありがとう」

「これからはそういうときはきちんと連絡してね」

「うん…」

どこに居ようが私の自由なのに、なんでそこまでしないといけないの?
颯さんは過保護すぎるよ。

こうやって迎えに来てくれたり、連絡がマメだったりするところが”優しい”と思っていた。
でもそれが今は鬱陶しくて仕方がない。

”そこまでしなくていいよ”
そんなこと言えるわけもなく、私は颯さんの腕の中でなにも言わずじっとしていた。
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