恋と、キスと、煙草の香り。
「珈琲でも入れようか?それとも紅茶のほうがいい?」

キッチンから颯さんがそう尋ねてくる。

「…大丈夫。要らないわ」

「そんなこと言わずに、だって今日は泊まっていくでしょ?とりあえず珈琲いれるね」

珈琲をつくる準備をする颯さんの後ろ姿に、私は意を決して口にした。

「婚約を解消してください」

広い部屋に私の声が響く。
颯さんは私の言葉に手をぴたっと止めた。

「お願いします。婚約を解消してください」

私はもう一度そう告げ、颯さんの後ろ姿に頭を下げる。
颯さんはなにも言わない。

「会社も辞めさせてください。今までこんなに良くしてくれたのに、本当にごめんなさい」

どれくらい時間が経っただろう。
何も音もしない部屋の中、私は頭を上げ続ける。

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