恋と、キスと、煙草の香り。
「…なーんて、言うと思う?」

振り向いた颯さんの表情は笑っていた。
いつもと同じ笑顔のはずなのに、その表情に私は恐怖を感じた。

「僕は別れないよ。絶対に」

そう言うと笑顔のままゆっくりと私に近づいてくる。

「環に男がいたのはずっと前から気づいてたよ。環ったら、誤魔化すのが下手すぎてバレバレだよ。あんなに煙草のにおいをぷんぷんさせてたら、そりゃ気づくって。ふふっ」

笑い声を上げる颯さんが一歩近づく度に、私は一歩後すざりする。

「ずーっと気づかないふりをしてあげてたのに。馬鹿な環」

怖い。
颯さんのこんな表情見たことない。

「きゃっ」

机の角に足をぶつけ、私は床に倒れこむ。

「でも世間知らずで、嘘が下手なところも好きだよ。愛しくてたまらない。愛してるよ」

「なに…言ってるの?」

この人、どうしちゃったの?
怒りでおかしくなっちゃったの?
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