恋と、キスと、煙草の香り。
壁に背中がついて、もうこれ以上逃げられないところまで来る。
どうしよう、近づいてくる。
逃げたいのに逃げられない。

「私、いま他に好きな人がいて、婚約を解消したいって言ったのよ?軽蔑して、責めるところじゃないの…?」

そう言った私の声は震えている。

「環に責める要素なんてないよ。環はその男に言葉巧みに”騙された”だけなんだから」

「騙…された…?」

颯さんは私の目の前に立ちはだかると、ゆっくりとしゃがんで手を伸ばし、私の左の頬に触れる。
私は思わず身体をこわばらせる。

「環はその男に甘い言葉を言われて、好きだと勘違いしちゃったんだよ」

「違う!私は本当に彼が…!」

「ごめんね。僕の愛情が足りてなかったせいだね。これからは環を不安な気持ちにさせないよう、もっともっと愛するよ」

彼の顔が近づいてきて、私は彼の口を両手で押さえる。
するとあっという間に両腕を押さえつけられて、口を塞がれる。

「ん…っ!」

抵抗してもびくともしない。

何度も何度も舌を入れられ、激しいキスをした後私は床に押し倒される。
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