恋と、キスと、煙草の香り。
『僕には今度結婚を予定している婚約者がいるんだけれどね』

何だ、いきなり自慢かよ。

『そうなんですか。それはおめでとうございます』

思ってもいなかったが、客の機嫌を損ねると面倒なのでとりあえず祝福の言葉を述べる。
しかしその客は俺の考えていた反応とは違い、深いため息をついた。

まずい、何が間違ったことを言ってしまったか?

『みんな同じ反応をするんだけれど、僕は正直、結婚に乗り気じゃないんだよね』

『それはどうしてですか?』

会社の副社長でお金も持ってる、婚約者もいるって恵まれすぎていて何が不満なのだろう。

『親が決めた婚約者だからだよ。俺は別に相手のことが好きなわけじゃないし、望んだ結婚じゃない。でも僕から破談になんてできない。…だから君に頼みたいんだ』

その客はポケットから茶色の封筒を取り出して、俺に渡す。
中身を見てみると、それは札束だった。
俺は目を丸くする。
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