恋と、キスと、煙草の香り。

「うわ、あっちい!」

私の腕を掴んでいた男がいきなりそう叫んだ。
私はその声でおそるおそる目を開けた。

男の頭から液体が滴り落ちる。
香りからして、珈琲のようだった。

「てめえ、何するんだよ!」

男が罵声を浴びせる方を見ると、たむろしていた男達の中にはいなかった、別の一人の男が鋭い目付きで立っていた。

「なんか目障りだったから」

そう言い放ち、珈琲のカップを地面に放り投げる。

20代前半くらいだろうか。
その男は金髪でつり目気味の目、白いTシャツにGパン、黒のジャージを腰に巻いていた。

「てめえ、喧嘩売ってるのか?」

金髪の男に近づいた瞬間、珈琲をかぶった男は地面にひれ伏し、鼻から赤い血がだらっと垂れる。
一瞬だったが、殴られたようだった。

「…目障り」

金髪の男が睨み付けると、がらの悪い男たちは後ずさりし、怯えながら走って逃げていった。

私はその場に崩れ落ちる。
男たちがもういないにも関わらず、身体の震えは止まらなかった。
< 7 / 107 >

この作品をシェア

pagetop