恋と、キスと、煙草の香り。
「うわ、あっちい!」
私の腕を掴んでいた男がいきなりそう叫んだ。
私はその声でおそるおそる目を開けた。
男の頭から液体が滴り落ちる。
香りからして、珈琲のようだった。
「てめえ、何するんだよ!」
男が罵声を浴びせる方を見ると、たむろしていた男達の中にはいなかった、別の一人の男が鋭い目付きで立っていた。
「なんか目障りだったから」
そう言い放ち、珈琲のカップを地面に放り投げる。
20代前半くらいだろうか。
その男は金髪でつり目気味の目、白いTシャツにGパン、黒のジャージを腰に巻いていた。
「てめえ、喧嘩売ってるのか?」
金髪の男に近づいた瞬間、珈琲をかぶった男は地面にひれ伏し、鼻から赤い血がだらっと垂れる。
一瞬だったが、殴られたようだった。
「…目障り」
金髪の男が睨み付けると、がらの悪い男たちは後ずさりし、怯えながら走って逃げていった。
私はその場に崩れ落ちる。
男たちがもういないにも関わらず、身体の震えは止まらなかった。