恋と、キスと、煙草の香り。
『うわ、あっちい!』

もう熱くもない珈琲をかぶって熱そうな演技をする。
そいつがそう声をあげると、女は驚いた顔をしていた。

『てめえ、何するんだよ!』

俺をみてそう睨み付ける。
こいつら演技上手いな。
そう思いながら、俺は会話を続ける。

『なんか目障りだったから』

そう言い放ち、俺は珈琲のカップを地面に放り投げる。

『てめえ、喧嘩売ってるのか?』

仲間が近づいてきた瞬間、そいつを殴る。
顔をみると、鼻から赤い血がだらっと流れていた。

やべえ、やり過ぎたか?
しかし演技をやめるわけにはいかなかったので、俺は続ける。

『…目障り』

俺がそういい放つと、全員少しずつ後ずざりし、走って逃げていった。
それを見届けたあと女に目をやると地面に座り込み、震えていた。
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