恋と、キスと、煙草の香り。
前科のある俺に不釣り合いな、品がある綺麗な女だと思った。

何だよ、写真よりも全然綺麗じゃねえかよ。
こんな綺麗な婚約者がいて別れたいなんか贅沢すぎるだろ。

本当、世の中は不公平だ。
ムカつく。

『女がこんな夜中に一人で歩いてんじゃねえよ』

『きゃっ…!』

俺は女の腕を一気に引っ張って立たせると、女はふらついて抱き締める形になってしまった。

やべ、強引すぎたか。
失敗した。
やっぱり不器用な俺に演技とか無理だったんだよ。
やったからにはこのまま突き進むしかないか。

『珈琲、台無しになっちまったじゃねえか』

俺がそう言うと女ははっとした顔をする。

『ごめんなさい!私、買い直してきます!』

『いい。萎えた』

駄目だ、失敗だ。
これじゃあ脅しじゃねえか。
やっぱり俺には無理だ。
100万は返してこんなことやめよう。

そう考えて俺は女を背にして去ろうとする。
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