恋と、キスと、煙草の香り。
『小松原さん、俺…』

”惚れさせるなんて無理です”
そう言おうとして思いとどまる。

でも俺がこれを断ったら、小松原は他の男に同じように頼んで、同じことをやらせるんだろうな。
そしたらあいつ、どうなるんだ。
お金を搾り取られて、身体をボロボロにされて、風俗とかに売られるのか?

俺はそんな女の姿を想像して、ぎゅっと目をつぶる。

『どうした?』

『…いえ、何も』

『まあどんな手でもいいから、君に惚れさせて別れを切り出させられたらいいから。また連絡する』

小松原はそう言って通話を切った。
それを確認して携帯をベッドに投げつける。

くそ…断れなかった。
俺にはあの女がどうなろうが関係ないのに。
風俗に売られようが、どうでもいいことなのに。
何でだ?

その夜、俺は風呂も何もする気が起きず、すぐにベッドに潜り込んだが、一睡も出来なかった。

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