恋と、キスと、煙草の香り。
『…お前、名前は?』

俺がそう言うと、彼女は少し驚いた顔をした。
やべえ、引かれたか?

『たまき…有野環よ』

全然知らない男に本名をなのって良いのかよ。
不用心だな。

『俺は…”あらた”。新しいって書いて”新”。……環、お前変わったやつだな』

自ら危険に飛び込んできて駆け寄る。
住む世界の違う知らない俺に、こんなに優しく手を差しのべて、華のように笑う。
彼女は小松原にもこんな風に笑うのだろうか。

『この借りは必ず返す』

女に守られるなんて、しかもこれから騙そうとしてるやつに守られるなんて。

『この前私を助けてくれたんだから、お互い様でしょう?』

彼女は不思議そうにそう言う。

『女を守るのは男の役目だ。女に助けられるなんて性に合わない』

俺がそう言うと、彼女は吹き出して笑う。

『何笑ってるんだよ』

『ううん、何でもないわ』

俺は笑われてる理由がわからなかったのに少しムカついて、彼女から顔を背ける。

そんな俺に彼女は手を伸ばし、唇の横を触る。
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