恋と、キスと、煙草の香り。
『いてっ…』

さっき殴られたところが急に痛くなってきて、顔を歪める。
あの野郎、思いっきり殴りやがって。

『私、絆創膏持ってるわ』

彼女は鞄の中からポーチをとり出し、絆創膏を1枚取り出す。

『ただのその場しのぎの応急措置だけれど』

彼女は俺の唇の横に絆創膏を丁寧に貼りつける。
俺がじっと見つめているのに気づき、彼女はまた華のように笑う。

『…よく、笑うやつだな』

彼女の笑顔を見てると心が安らぐ。
俺は思わずつられて笑っていた。

『はじめて笑った』

彼女にそう言われて俺ははっとする。

『…そんなわけねえだろ』

俺は恥ずかしくなって顔を逸らす。
彼女の笑顔が俺の気持ちを掻き乱す。
不思議な女だ。

『…来週水曜、23時』

『え?』

彼女は不思議そうな顔をする。

『その時間にここに来い。今日の礼、するから。別に…嫌なら無理に来なくても』

『わかったわ!』

断られると思っていたのに、彼女はすぐに快諾した。

『そうかよ…』

そういって俺は顔を逸らした。

出会って2回目にして、俺は完全に騙すなんてことを忘れて、環の笑顔に惹かれ始めていた。
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