恋と、キスと、煙草の香り。
18時すこし前。
俺はあのコンビニの近くに差し掛かる。
息を切らしながら、俺は一心不乱に走っていた。

いくら何でもそんな都合よく会えるわけなんてない。
そう思っていたのに。

俺は走るスピードを落とし、立ち止まる。
彼女の後ろ姿を見つけたときは、くさいけど運命かなと思ってしまった。
俺ってこんなに、ロマンチストだっただろうか。

『環…!』

彼女の後ろ姿に向かって叫ぶ。

『あら…た…?』

俺の声に彼女は振り向く。
ああ、愛しい。
もう一度抱き締めてキスしたい。

『たまき…』




俺がもう一度彼女の名前を呼んだ瞬間、彼女の身体が崩れる。
そのまま彼女は地面に倒れこんだ。

目の前の出来事に、俺は何が起こったか把握するのに時間がかかった。

『環!?』

俺は崩れた彼女のもとへと駆け寄り、抱き起こす。

身体が熱い。
熱があるのか?

『ううっ…』

苦しそうにぜえぜえと息をはき、額には汗が滲んでいた。

環の家は知らないし、知っていても俺が環を抱えて実家に行くわけにも行かない。
俺の家に連れていくには少し距離が遠すぎる。
どうするか…。



そういえば、ここから10分ほど歩いたところにあまり綺麗じゃないが小さなラブホがなかったか?

環が目の前で倒れて頭が回らなかった俺にはそれしか思い付かず、意を決して環を抱えて走り出す。

苦しそうな声を漏らす環を放ってなんておけない。
俺は一目散にホテルへ向かった。
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