恋と、キスと、煙草の香り。
『環、俺のものになって』
その夜、俺は一晩中環を抱いた。
無我夢中で、朝になっていたことなんて気づかなかった。
もともと熱があった環は、体調が悪化して仕事を休んだ。
俺が無理させたからだ。
だからその日は必死に彼女を看病して、俺も仕事を休んで一日中連れ添った。
幸せだった。
もう環を手離すなんて無理だった。
一日休んだ次の日には環も体調も良くなり、朝方、ホテルの前で別れた。
環と別れて家に帰る道中、まだ真っ暗な空を見上げる。
これは、夢じゃないんだよな。
環の匂い、甘い声、肌の感触…
まだ全部覚えている。
小松原に断りを入れようと思ったが、やめた。
言う通りに動いているように見せかけて、このままあいつから環を奪い去って、一緒になろう。
金も手にはいるし、それでしばらくの生活費は賄える。
贅沢はさせてやれないが、それでも環は俺を選んでくれるだろうか。
そんなことを考えながら、俺は暗闇を歩いていった。