甘いキミの誘惑




「さて…」



彼に目の前で渡すわけでも、
彼に直接言うわけでもない。

ただ靴箱に手紙を入れるだけなのに、手汗が尋常じゃないくらい出て、心臓がものすごい早足で音を立てる。

入れてしまえばいいのに。

あと一歩の勇気が出ないのだ。



「うーーーん…やっぱり、今日はやめておこうか」



意気地無し。弱虫。
わかっているのに、私の足は靴箱から離れようとしている。

また明日、明日考えよう。

みよっちゃんに相談してみよう。



「…帰ろ」



諦めてカバンに手紙を直そうとしたときだった。



「ねえ、なにしてんの?」



よく通る、すこしだけ低い声。

その声を聞いた瞬間、ぶわっと手汗が滲んだのが自分でわかった。



「っ、た、田中くん…」



少しだるそうに靴箱にもたれかかって、
じっと私を見つめる人。

私の告白しようとした相手、田中くん。



「そこ、俺の靴箱だよね」


「は、はい、えっと、」


「何〜?いじめ?」


「いえっ、そんなことは全く!」



あなたの靴箱にラブレターを入れようとしてたんです〜なんて、言えるわけない。

あぁ、どうしよう。

こんなタイミングあるんでしょうか。


まるで神様が告白しろと言わんばかり。



「その手に持ってるの、何?」


「っ!」





< 5 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop