甘いキミの誘惑
危ない危ない。
まだ私が書いたものってバレてないんだから、このまま平静を装えば、今ここで恥ずかしい思いをすることはない!
…はず。
だから、お願いだから帰らせてください!
「…これ、おちてたんだ?」
「は、はい、おちてました…」
「ふーん…」
疑っているのか、田中くんはじーっと私を見つめてくる。
ああ、お願いだからそんなに見つめないでください。
ドキドキしすぎて頭がおかしくなりそうだ。
これ以上ここにいたら危険な気がする。
そんな気がする。
「じゃ、じゃあ、私、急いでるので帰りますねっ」
そう言って勢いよく田中くんに背を向け、自分の靴箱に向かおうとしたとき。
ぱしっと腕を掴まれた感覚。
「…え?」
恐る恐る顔だけ振り向けば、そこには何故かにこにこ笑顔の田中くん。
田中くんがこんなに綺麗に、嘘くさく笑うところを初めて見た。
ちょっとだけ怖い。
何か企んでるような、そんな笑顔。
「これ、落ちてたんだよね?」
「は、はい」
「それ、拾ってくれたんだよね?」
「そうです…」
何!?何でそんなにいい笑顔で質問責めしてくるの!?
もしかして、私が書いたってバレてる!?