【完】たばこ
「薫子。」
薫子。
そう口を開いた翼の視線の先には。
可愛らしい女性が立っていた。
あの服装は、よそいき。
というか、デートだよね。
シフォンのワンピースに少し高めのヒール。
ゆるく巻かれた髪の毛。
桜色に色づいた顔はまさにデート用の量産型女子だった。
「……あ、翼くん?」
翼の声に気付いた薫子という女性は。
嬉しそうに小走りでこっちに寄ってきた。
動きまで女子じゃん。
こういう人、嫌いだわ。
「なんでここに?今日予定あるって。」
「うん、予定あるから今展覧会の帰りなの。」
「俺誘った時は行けないって言ったくせに……。」
「だってもう行く人決まってたんだもの。でもよかったわ。ちゃんと行く相手、いたのね。」
私を見てにっこり笑う薫子。
その後、一瞬鋭い目つきをしたことを。
私は見逃していない。
こいつ、裏あるでしょ。
見た目は可愛い男子受け狙った格好してるけど。
中身はとんだ目狐じゃん。