【完】たばこ

そう言って渡されたのは。
きっとたばこの匂い消しに使っているであろう。
ブルーベリーの飴だった。


ひらひらと平然を装って手を振った後、私は駆け足で階段を下りた。
この昂揚感たまんない。
同種、はじめて見つけたかも。
レア物を発見したみたいに心が浮き立つ。
頬が紅潮して行くのが分かる。
心臓ドクドクいってる。
生きてる、って感じがする。

翼。ツバサ、つばさ。
私と、同じ。





翼との出会いが半年くらい前。
それから毎日私たちは。
お昼休み残り10分。
同じ時間を共有するようになった。


といっても。
翼は食後の一服のたばこを吸う。
私は外を眺めるだけ。
特に話す事もなく。
時間を共有するだけ。


私が帰る時に。
翼は必ずブルーベリーの飴を渡す。
私はそれを5限目の間舐めて過ごす。
カランコロン、音を立てながら。
さっきの時間を何回も脳内再生する。


翼は私とって特別だ。
翼と過ごす時間は嫌いじゃなかった。


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