【完】たばこ
落ち着くしお互いに干渉し合わないし。
そういう空気感が一緒にいて楽だった。
そして、それは翼も同じだ。
そういうのを肌で感じていた。
言わなくったって分かる。
そういうものでしょ?
翼も絶対この時間、嫌いじゃない。
「そろそろ行くね。」
「ああ、……あっ。」
いつものように飴を取り出そうとポケットの中を漁っている翼は。
違和感を感じたのか、一瞬動きを止めた。
「……どうしたの?」
「飴、ひとつしかねえ。」
「……そう。」
その言葉を聞いた後、私は扉の方へ歩いていった。
飴はたばこの匂い消しに使っているものだ。
ひとつしかないのなら、必然的に舐めるのは翼だろう。
半年間続いた日課のようなものが今日で途切れることに。
少し違和感というか哀愁じみたものを感じるけれど。
特にルールだとか、決めごとというものでもなく。
約束もしていない不確かなものだったから。
気にしないことにしてこの場を去ろうとした。
その時、翼の手が私の腕を掴んだ。