【短】世界は君色に変わってく
そう。
先輩が日本を旅立ってすぐに、あんなことさえ起きなければ。
それは、部活が終わって同じクラスの子と帰ろうとしていた時。
私は、その子を待つ為に、教室に1人でいた。
かたん
乾いたドアの音が微かに聞こえて、私は漸くやって来たのかとそちらを向く。
「もー…遅いよ?何してた、の…って…」
「あれ?神咲さん?どうしたの?こんな時間まで部活?大変だなぁ…」
そこの現れたのは友達でもなんでもない、ただのクラスメイトである蓮沼くんの姿。
なんとなく、私は彼の顔を見て、不快感を覚える。
それは…。
つい先日、部活に行く途中の空き教室で隣のクラスの美人さんと抱き合っていた所を目撃してしまったからかもしれない。
…さも、そういうコトを学校でするのが当然みたいな顔つきが、滅茶苦茶嫌な感じだったんだ…。
あの、普段は清ましているけれど、実はチャラいって所もいけ好かない。
だから、総評して、私は蓮沼くんが、嫌い。
そういうことになる。
なのに、何故か私は彼に気に入れられているようで…。
「ねぇ?神咲さん?…俺と付き合おうよ?俺優しいよ?」
そう何度も笑いかけられていた。
現に、今も、だ…。
「…無理。蓮沼くん、しつこいよ?ていうか、蓮沼くん付き合ってる人いるじゃん」
「んー?付き合ってる人?……誰?ソレ?」
悪びれもせずにそういうと、じり、と彼は私の方へ寄って来る。
その距離の詰め方さえも、気持ちが悪かった。
「なんで、そんな顔してんの?」
「…だって、なんか蓮沼くん、怖い…」
「ひどいなぁ?」
俺、そんな怖くないよ?
そう言って確実に私を射程距離に入れる彼。
私は、恐怖に身を震わせた。
「俺ね?欲しいものが手に入らないの、物凄い気にいらないんだよね」
そして、庇うようにして胸元でカバンを持ってた手首をぎゅうっと握り締められる。
「いった…っ」
「ね?簡単なことでしょ?神咲さんはなーんにも考えないで『いいよ』って笑ってくれればいいんだよ?」
怖い。
ただ、それだけだった。
こんな人に良いようにされるのは嫌だった。
だから、心が悲鳴を上げる。