【短】世界は君色に変わってく
助けて、先輩っ!
フリーズしてしまった私を、観念したのかと思ったのか彼はぐっと顔を近付けてきた。
「いっや!」
がたんっ
私は勢いよく、カバンを押しやって彼から飛び退けた。
その椅子の激しく響いた音を聞き付けて、誰かがバタバタと教室へと入ってくる。
「アンナ?!」
「彩美っ…」
「ちっ。…ざーんねん。じゃ、神咲さん…またね?」
「ちょ、蓮沼!アンナに何したの?!」
「べーつに?」
悔しいのとムカつくのと、怖いので気持ちがぐちゃぐちゃになった私は、涙が出てくるのを止めることが出来なかった。
「よしよし。もう!蓮沼ムカつく!自分がモテるとか勘違いしてんじゃないの?」
「…ん。かもしんない…てか、手首痛いよー…」
やっと落ち着いて来て、私は彩美が来るまでに起こったこと…蓮沼くんから言われたことを話した。
それに対して自分のことのように怒ってくれる彼女は、蓮沼くんと中学から同じで高校デビューをした蓮沼くんのことをふんっと鼻で笑って「あんなにダサかったくせに」なんて言える唯一の存在だ。
「大体さ、なんでアンナに付きまとうんだか」
「最初が悪かったのかなぁ?」
「最初?」
そう。
初めて、蓮沼くんに声を掛けられた時、私は先輩のことも知らなかったから、恋なんてものを考えもしなくて…曖昧に「今は考えられません、ごめんなさい」的な感じで断ったんだ。
それが、あやふやな意味で捉えられたのか、それともその場凌ぎだと思われたのか、何かにつけて告白を受ける形になってしまったことを、私は心の中で悔いた。