あなたがすきなアップルパイ
何度も繰り返す。とろけるような絡み合うキス。
お互いに求め合う。何度も、何度も。
そうして夢中になっていると、気を緩めていた莉子のブラウスの下に彼の手が滑り込んでくる。彼は慣れた手つきで、莉子の身につける下着のアンダーの輪郭を撫でる。
慌ててそれを止めて、莉子は彼に向き直る。
せっかくいいところで止められて、彼の方は少し不満そうにしている。
「だめ。まだお風呂に入ってないもの」
「俺は別に気にしないけど」
「私が気にするの。待ってて」
大好きな恋人の前では、せめて一番可愛い女の子でありたい。
そこまで言うなら待っててあげるしかないと、不貞腐れながら新谷は待つ間再び横になる。
それを横目に見ながら、ごめんねと莉子は新谷の額にキスを落とす。こんなに可愛いことをされては彼ももう何も言えなくなる。
「またアップルパイ食べてる」
莉子がお風呂をさっさと済ませて出てくると、リビングで莉子を待っていた新谷がお店の箱を開けてアップルパイを摘んでいた。
外で見る彼はクールで大人な男性の印象で、しかしこんな少年らしい彼の一面があるのも莉子の胸をくすぐる。
「莉子も食べる?」
「いいよ。今日は一個しか持って帰れなかったし。新ちゃんが食べて」
せっかく仕事で疲れている彼のために持って帰ってきたのだから、自分のことは気にしないでいいと莉子は断ったのだが、新谷は片手でこっちに来いとばかりにジェスチャーをしてくる。
ドライヤーをあてたばかりの髪を手櫛で整えながら言われるままに彼の隣に来て座ると、アップルパイを一口齧った彼は莉子の後頭部に手を回して、そのまま莉子と唇を重ねる。
そういえばお風呂から出るまでお預けにしちゃっていたなと、その頭の片隅にふと思い出しながら、口移しで彼からもらったアップルパイを齧る。
「甘い……」
「ちゃん付けするのはやめろと言ってるだろ」
「好きだよ。新ちゃん」
からかうように莉子が小悪魔な目線で彼に愛を囁けば、具合が悪いように頭を掻きながら「俺もだよ」と応えて再び愛を絡め合った。