あなたがすきなアップルパイ

 
 
 
 ――――じゃあ、ずっと新さんのために、アップルパイ作ってあげようか?
 
 
 
 
 逆プロポーズ。
 ――になるのかは莉子も特別意識したことはなかったが、新谷への想いが思わず溢れて出た言葉。
 
 
 
 
 
 
「莉子」
 
 
 彼には、どう届いただろうか。
 届いてくれただろうか。
 
 お互いに愛し合う相手の目を見つめ合い、その気持ちを確かめ合う。これからも彼とこうして愛を分かち合いたいと、莉子は願う。
 彼の気持ちは、それにちゃんと応えてくれるのだろうか。
 
 
 
「俺は、莉子のことをちゃんと大事にしたいと思っているよ」

 
 新谷は、いつになく優しい目をしている。
 不安そうに自分を見つめる莉子にそう言ってふわりと微笑んでくれるが、この願い事がちゃんと彼に届いているか莉子は不安になる。
 
 賢い彼のことだから、きっと莉子の気持ちに気づいてくれている。けれど、今はまだはぐらかす。
 
 
 
「疲れただろ。もう寝ようか」
 
 
 莉子の身体を労り、最後には優しい言葉で心を満たしてくれる。
 彼からそっとおやすみのキスをされて、そのまま彼の腕の中で眠ることにした。
 
 明日も早い。彼の言う通り、早く寝ることにした。
 莉子の意識に襲いかかる睡魔に身を委ね、考えないようにした。彼がはぐらかしたこと。どうして彼ははぐらかしたのか、自分の中では永遠に答えの出せない問いに囚われないよう、莉子は今ある幸せに抱きしめられて目を閉じる。
 
 
 
 
 彼は、本当に自分の憧れを叶える運命の相手であるのだろうか。
 
 
 そんな昔の憧れも、莉子の内側で埃を被っていた――。
 
 

 
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