あなたがすきなアップルパイ
09.この恋のエンド
今晩は、新谷が出張から帰ってくる夜。
しばらく彼の顔を見なくなって、彼と楽しい時間を過ごしたリビングの片隅で、莉子はテーブルに置いた白い箱を前に、その人の帰りを待ち焦がれた。
その人の靴音を、その人の低い声を……もうすぐ会える期待だけで、心臓が暴れている。こんなに心が落ち着かずにいるのは、まるで付き合いたての頃を思い出す。
彼とここで二人で暮らすまで、色々なことがあったことを振り返る。この日の夜が来るまで会えなかった恋人の顔を、まぶたの裏に思い浮かべた。携帯画面に、彼からの連絡はない。
いつも彼のために持って帰っていた白い箱が、目の前にある。一人の夜の時間が増えると、彼のことを考える時間が多くなっていた。遠い場所にいる彼は誰の隣にいるのか、あなたの恋人のことを考えてくれているだろうか? 気づいたら、そんな弱い自分が顔を出す。
彼の帰りが待ちきれず、時計の針はもうすぐ一日を終える。まだ帰る気配はない。
彼からの連絡が届く前に、莉子の意識はいつしか白くぼやけていった……。