拾った彼女が叫ぶから
それでお呼びしたの、とこれもまた邪気のない笑顔でおっとりと告げられて、マリアはぎゅっと心臓を掴まれたようになった。
どういう意味だろう。
相手は王族で、しかもルーファスの妹で、更に言えば悪意から出た言葉じゃないとわかりはするけど。
必死で平静な声を心がけたけど上手くいったのかわからない。
「どうして私が傷付くと思われるのですか?」
「だってマリア、ルーファス兄上に好意を寄せているのよね? ゲイル様から聞いたのだけど……その、あなたが兄上に言い寄っているって」
「いえ、私はそのようなことは」
随分な言い方だなとマリアは苦笑するしかなかった。
ゲイルもゲイルだ。なぜそのようなことをわざわざイエーナの耳に入れるのだろう。もしかして、マリアがゲイルにしたことも、言い寄ったと捉えられているのだろうか。だから今もまた、マリアが同じことをしているように見えるから注意しなさい、とでも?
マリアは言い寄ったことなどない。少なくとも言い寄る前提になるだけの感情をまだ自分でも捉えきれていないし、ましてやゲイルの前で見せたつもりもない。確かに、流されるままにキスを受け入れたことも、いやキスどころか身体を委ねたこともあるけれど、そんなことは誰にも打ち明けたことなどない。
それなのに、周囲からは言い寄っているように見えるなんて。
それにイエーナもそれをそのままマリアに伝えるとは、相当な天然かわざとなのか。
「あら、そうなの? マリアはルーファス兄上の命令で仕えているって聞いていたからゲイル様のお話と合わせるとてっきりそうなのかと……ごめんなさい」
「いえ、気になさらないでください」
「良かった、それなら心配無用だったわね! ルーファス兄上には婚約者がいらっしゃるのよ」
マリアはひゅっと息を呑んだ。
──今なんて?
懸念が去ったとばかり、すっきりした顔で紅茶を口にするイエーナを前に、マリアは膝上で握り合わせた両手が震えるのを堪えるのに必死だった。
キャラメルの甘い香りがまとわりついて煩わしい。
「だからマリアがショックを受ける前にお伝えしようと思ったの。ほら、ルーファス兄上も婚約者がおられるのに、マリアに絆されて何かあったら大変だもの。でも早とちりだったのね! ごめんなさい、こんなところまで呼んで変な話を聞かせて。ゲイル様にもお伝えしておくわね。心配なさっていたから」
──婚約者?
それって、──ゲイルと同じじゃないか。
わなわなと唇が震える。もしかしたら真っ青になっているかもしれない。晴れ晴れとした顔をしているイエーナを前に、どうやって取り繕えばいいのかわからない。
笑顔で自分と一緒にいてくれたルーファスは嘘だった?
抱き締められたのも、キスされたのも。
──遊びだった?
どういう意味だろう。
相手は王族で、しかもルーファスの妹で、更に言えば悪意から出た言葉じゃないとわかりはするけど。
必死で平静な声を心がけたけど上手くいったのかわからない。
「どうして私が傷付くと思われるのですか?」
「だってマリア、ルーファス兄上に好意を寄せているのよね? ゲイル様から聞いたのだけど……その、あなたが兄上に言い寄っているって」
「いえ、私はそのようなことは」
随分な言い方だなとマリアは苦笑するしかなかった。
ゲイルもゲイルだ。なぜそのようなことをわざわざイエーナの耳に入れるのだろう。もしかして、マリアがゲイルにしたことも、言い寄ったと捉えられているのだろうか。だから今もまた、マリアが同じことをしているように見えるから注意しなさい、とでも?
マリアは言い寄ったことなどない。少なくとも言い寄る前提になるだけの感情をまだ自分でも捉えきれていないし、ましてやゲイルの前で見せたつもりもない。確かに、流されるままにキスを受け入れたことも、いやキスどころか身体を委ねたこともあるけれど、そんなことは誰にも打ち明けたことなどない。
それなのに、周囲からは言い寄っているように見えるなんて。
それにイエーナもそれをそのままマリアに伝えるとは、相当な天然かわざとなのか。
「あら、そうなの? マリアはルーファス兄上の命令で仕えているって聞いていたからゲイル様のお話と合わせるとてっきりそうなのかと……ごめんなさい」
「いえ、気になさらないでください」
「良かった、それなら心配無用だったわね! ルーファス兄上には婚約者がいらっしゃるのよ」
マリアはひゅっと息を呑んだ。
──今なんて?
懸念が去ったとばかり、すっきりした顔で紅茶を口にするイエーナを前に、マリアは膝上で握り合わせた両手が震えるのを堪えるのに必死だった。
キャラメルの甘い香りがまとわりついて煩わしい。
「だからマリアがショックを受ける前にお伝えしようと思ったの。ほら、ルーファス兄上も婚約者がおられるのに、マリアに絆されて何かあったら大変だもの。でも早とちりだったのね! ごめんなさい、こんなところまで呼んで変な話を聞かせて。ゲイル様にもお伝えしておくわね。心配なさっていたから」
──婚約者?
それって、──ゲイルと同じじゃないか。
わなわなと唇が震える。もしかしたら真っ青になっているかもしれない。晴れ晴れとした顔をしているイエーナを前に、どうやって取り繕えばいいのかわからない。
笑顔で自分と一緒にいてくれたルーファスは嘘だった?
抱き締められたのも、キスされたのも。
──遊びだった?