拾った彼女が叫ぶから
本当の気持ち
震える手で小さな猫の温もりにすがりながら、マリアは続けた。
「やっぱりあんたはろくでもなかった。王子だから許されるとでも思った? 馬鹿にしないで。あんたはさんざん私を弄んで、楽しかったでしょうね。言葉一つでその気になる私なんて、扱いやすかったでしょう。一度男に騙されている私なら簡単だとでも思った? 既に使い古しの身体なら何をしても大丈夫って? そうよ、私は馬鹿だから舞い上がったわよ。あんたは王子だって言うのに、微塵も疑わなかった。何か言えないことがあるのかなとは思ってたけど」
「マリア?」
「名前なんか呼ばないで! どうせ陰で笑ってたくせに。面白がっていたくせに」
「マリア、どうしたんですか」
「やめてやめて!あんたの顔なんか見たくない。何であの日だけで終わらせてくれなかったの。何で王宮になんか呼んだの。抱きたかったから? 相手が私なら火遊びしても誰にも言わないだろうって? そうね、当たってるわよきっと。あんたがそうしてくれって言うならきっと私はそうしてたわ。誰にも言わずに、騙されたまま、あんたの言うままにね」
「マリア、待って、何の話だかさっぱりわかりませんよ」
ルーファスが彼女をぐいと引いた。マリアはその腕から逃げようともがいた。
感情が高ぶってしまって涙がぼろぼろと零れる。構わず暴れるマリアをルーファスが押さえ込む。
「離して! 触らないで! もう嫌なの! また同じなんてもういや……! あんたに婚約者がいるなんて、知りたくなかった!」
「え……?」
ルーファスがはっとして、それから表情をゆるゆると緩めた。でもマリアは頭がぐちゃぐちゃで、なぜ彼がはっとしたのかにまで思い至らない。
「なんで他の人がいるのに近付いてきたの……自分が嫌になるじゃない……私、また相手のいる人にうっかり……もうこんな風にはならないって、同じことはしないって決めたはずだったのに、最悪……王子だって知った時点であんたとの関わりなんて切れば良かった、お金なんて他の方法でも得られるのに、ほいほい誘いに乗ってダンスなんか踊って夢を見て……」
しゃくりあげながら、マリアは身体を支えきれずにホールの床にぺたりと膝をついた。ルーファスも膝をついて彼女を抱き込む。マリアはまだ弱々しく彼の手を振り払おうとしていたが、後から後から流れ落ちる涙を拭いながらでは、彼の片腕さえ退けることはできなかった。
泣き疲れてきて、ルーファスを押しのけるのを諦める。声が枯れ、喉がひりひりする。いつの間にか、その手は逆にルーファスの外套の袷にすがりついていた。握り締めた場所のすぐ上で、濃い染みがみるみるうちに広がる。
──やだ、やだ、あんたになんて触られたくない。
「やっぱりあんたはろくでもなかった。王子だから許されるとでも思った? 馬鹿にしないで。あんたはさんざん私を弄んで、楽しかったでしょうね。言葉一つでその気になる私なんて、扱いやすかったでしょう。一度男に騙されている私なら簡単だとでも思った? 既に使い古しの身体なら何をしても大丈夫って? そうよ、私は馬鹿だから舞い上がったわよ。あんたは王子だって言うのに、微塵も疑わなかった。何か言えないことがあるのかなとは思ってたけど」
「マリア?」
「名前なんか呼ばないで! どうせ陰で笑ってたくせに。面白がっていたくせに」
「マリア、どうしたんですか」
「やめてやめて!あんたの顔なんか見たくない。何であの日だけで終わらせてくれなかったの。何で王宮になんか呼んだの。抱きたかったから? 相手が私なら火遊びしても誰にも言わないだろうって? そうね、当たってるわよきっと。あんたがそうしてくれって言うならきっと私はそうしてたわ。誰にも言わずに、騙されたまま、あんたの言うままにね」
「マリア、待って、何の話だかさっぱりわかりませんよ」
ルーファスが彼女をぐいと引いた。マリアはその腕から逃げようともがいた。
感情が高ぶってしまって涙がぼろぼろと零れる。構わず暴れるマリアをルーファスが押さえ込む。
「離して! 触らないで! もう嫌なの! また同じなんてもういや……! あんたに婚約者がいるなんて、知りたくなかった!」
「え……?」
ルーファスがはっとして、それから表情をゆるゆると緩めた。でもマリアは頭がぐちゃぐちゃで、なぜ彼がはっとしたのかにまで思い至らない。
「なんで他の人がいるのに近付いてきたの……自分が嫌になるじゃない……私、また相手のいる人にうっかり……もうこんな風にはならないって、同じことはしないって決めたはずだったのに、最悪……王子だって知った時点であんたとの関わりなんて切れば良かった、お金なんて他の方法でも得られるのに、ほいほい誘いに乗ってダンスなんか踊って夢を見て……」
しゃくりあげながら、マリアは身体を支えきれずにホールの床にぺたりと膝をついた。ルーファスも膝をついて彼女を抱き込む。マリアはまだ弱々しく彼の手を振り払おうとしていたが、後から後から流れ落ちる涙を拭いながらでは、彼の片腕さえ退けることはできなかった。
泣き疲れてきて、ルーファスを押しのけるのを諦める。声が枯れ、喉がひりひりする。いつの間にか、その手は逆にルーファスの外套の袷にすがりついていた。握り締めた場所のすぐ上で、濃い染みがみるみるうちに広がる。
──やだ、やだ、あんたになんて触られたくない。