拾った彼女が叫ぶから
それなのに抱き込まれた背中にルーファスの手が何度も押し当てられ、宥めるようにさすられる。
それをどうしようもなく心地よいと感じてしまう自分が嫌で、情けなくて胸が痛くて、涙が止まらない。
彼の胸が、涙で濡れそぼった頬を温めてくれる。心の中では盛大に罵っているのに、その温かさから出て行きたくないと本能が叫ぶから身動き出来ない。
どうして自分はいつも間違えるんだろう。近付いてはいけない人にばかり近付いてしまう。
ぽつりと、温かい涙みたいな呟きが伏せた頭の上に落ちてきた。
「マリアは、僕が好きなんですか?」
「好きなんかじゃないわよ、自惚れないで……私はあんたが私を騙してたことを怒ってるんだから」
「僕は、初めて会ったときからマリアが好きですよ。怒っていてもマリアは可愛い」
「そうやってあっちにもこっちにも調子のいいこと言わないで」
「本当ですよ。僕はね、マリアが弱音を吐けないから好きになったんですよ。図書館で出会ったときだって最後まで涙をこらえていたでしょう? だから今マリアが僕に涙を見せてくれるのが嬉しい」
「誰のせいで泣いてると思ってんの。あんたが一番非道だわ」
「はは、非道ですか。相変わらずマリアさんらしい……。でも、誤解があるみたいですね」
「誤解?」
顔を上げたら、ルーファスを彩る琥珀色がとろりと溶け出して蜂蜜みたいな甘さを纏っていた。
その目が狡い、とまた心の中で毒づいてみせる。でもやっぱり心の奥深くは正直で、どんなに意地を張っても、認めたくなくても、思い知らされる。
──ルーファスに惹かれてる。もう抜け出せなくなっている。
マリアを抜き差しならないところに追い込んだ当の本人は、相変わらずの笑みでゆったりとマリアの背中を撫でながら続けた。甘ったるい眼差しで。
「婚約者の話はどこから聞いたんですか?」
「イエーナ殿下が教えてくださったのよ。あんたが、婚約者のいる身で間違いを起こさないようにって、私が──」
──あんたに好意を寄せているから、ショックを受ける前にって。
無邪気な王女殿下の笑みが蘇って、マリアはまた胸がずきりと痛みを訴えるのを感じた。
悔しいけど、ルーファスの顔を見たらわかった。彼女の言う通りだ。
「何でもない」
「ふぅん、イエーナが……?」
ルーファスが考え込むように眉をぴくりと上げる。その様子に何か引っかかることでもあるのかと尋ねるより早く、彼が満足そうに口元を緩めた。
「それでマリアは僕に決まった相手がいると思って泣いたんですね」
「違うってば。あんたに騙されたと思ったからよ」
「僕には婚約者などいませんよ。厄介なしがらみはありますが……マリアとの仲を深めるのには全く問題ない。それより、ねえ、マリア。知ってます?」
「何よ」
「マリアが、僕のことをあんたって呼ぶときは」
柔らかな目が細められる。いつもより真摯な笑みがマリアを抱き締める力を強くして、近付いて来た。
──マリアが、強がっているときなんですよ。
それをどうしようもなく心地よいと感じてしまう自分が嫌で、情けなくて胸が痛くて、涙が止まらない。
彼の胸が、涙で濡れそぼった頬を温めてくれる。心の中では盛大に罵っているのに、その温かさから出て行きたくないと本能が叫ぶから身動き出来ない。
どうして自分はいつも間違えるんだろう。近付いてはいけない人にばかり近付いてしまう。
ぽつりと、温かい涙みたいな呟きが伏せた頭の上に落ちてきた。
「マリアは、僕が好きなんですか?」
「好きなんかじゃないわよ、自惚れないで……私はあんたが私を騙してたことを怒ってるんだから」
「僕は、初めて会ったときからマリアが好きですよ。怒っていてもマリアは可愛い」
「そうやってあっちにもこっちにも調子のいいこと言わないで」
「本当ですよ。僕はね、マリアが弱音を吐けないから好きになったんですよ。図書館で出会ったときだって最後まで涙をこらえていたでしょう? だから今マリアが僕に涙を見せてくれるのが嬉しい」
「誰のせいで泣いてると思ってんの。あんたが一番非道だわ」
「はは、非道ですか。相変わらずマリアさんらしい……。でも、誤解があるみたいですね」
「誤解?」
顔を上げたら、ルーファスを彩る琥珀色がとろりと溶け出して蜂蜜みたいな甘さを纏っていた。
その目が狡い、とまた心の中で毒づいてみせる。でもやっぱり心の奥深くは正直で、どんなに意地を張っても、認めたくなくても、思い知らされる。
──ルーファスに惹かれてる。もう抜け出せなくなっている。
マリアを抜き差しならないところに追い込んだ当の本人は、相変わらずの笑みでゆったりとマリアの背中を撫でながら続けた。甘ったるい眼差しで。
「婚約者の話はどこから聞いたんですか?」
「イエーナ殿下が教えてくださったのよ。あんたが、婚約者のいる身で間違いを起こさないようにって、私が──」
──あんたに好意を寄せているから、ショックを受ける前にって。
無邪気な王女殿下の笑みが蘇って、マリアはまた胸がずきりと痛みを訴えるのを感じた。
悔しいけど、ルーファスの顔を見たらわかった。彼女の言う通りだ。
「何でもない」
「ふぅん、イエーナが……?」
ルーファスが考え込むように眉をぴくりと上げる。その様子に何か引っかかることでもあるのかと尋ねるより早く、彼が満足そうに口元を緩めた。
「それでマリアは僕に決まった相手がいると思って泣いたんですね」
「違うってば。あんたに騙されたと思ったからよ」
「僕には婚約者などいませんよ。厄介なしがらみはありますが……マリアとの仲を深めるのには全く問題ない。それより、ねえ、マリア。知ってます?」
「何よ」
「マリアが、僕のことをあんたって呼ぶときは」
柔らかな目が細められる。いつもより真摯な笑みがマリアを抱き締める力を強くして、近付いて来た。
──マリアが、強がっているときなんですよ。