拾った彼女が叫ぶから
エドモンドが苦々しい顔をする。
「ですが、一つ忠告させていただくのなら、イエーナを本当に心配なさるのであれば、この降嫁は考え直した方がよほど彼女の為です。マリア一人だけで社交界に噂が立つはずがありませんからね?」
相手あっての噂である。ゲイルも言っていたではないか、「大人の関係だ」と。それなら、マリアだけを糾弾するのはお門違いだ。それにマリアをあのように扱っておいて、あのゲイルがイエーナのことは大事にするとは考えにくい。醜聞を根拠に判断するならば、イエーナの件も取りやめるべきだ。
「婚約の書類に調印も済ませたのだ、それはできない」
婚約発表の後で特別の理由もなく解消すれば、王家の威信に傷が付く。王命が軽んじられる。たやすく取り下げることはできない。
エドモンドが先ほどの失言に気付いたのだろう、小さく唸(うな)る。 ルーファスは笑みを強めた。言うならエドモンドが気まずい思いをしている今だろう。
「兄上。全てをご存知なら、一つお願いがあるのですが」
「お前が? 何だ、珍しいな……」
エドモンドがぐったりとソファに沈み込んだ。
疲れた様子で「続けろ」とルーファスを促す。ルーファスは早速、騎士団から何人かを融通して欲しいことをその理由と共にエドモンドに訴えた。
「確かに、その可能性は否定できないな」
「ええ、おそらく今が最も危険です。イエーナの為にも、防ぐべきだと思いませんか? それに王家のためにもこのまま捨て置くことはできないでしょう」
「……お前は相変わらず、交渉が上手いな」
「相手の顔色を見る訓練はだいぶさせていただきましたから」
にっこり笑うと、エドモンドがげんなりとため息をついた。
「わかった、期間は」
「結婚式までお願いしたいのですが」
「それは許可できない。あと八ヶ月もあるんだぞ。それだけ長い間、彼らを違う任務につかせれば父上に気づかれる。せいぜいお前がトゥーリスから帰るまでだ。後は自分で何とかしろ。私の裁量で付けるとなると二、三人が限界だな」
「期間は仕方ないですね……、ですが後のことを考えれば、もう二、三人は必要です」
「後のこと? 一体何を企んでいる?」
エドモンドの目が胡散臭いものを見るものに変わる。ルーファスは身を乗り出した。
「企むなんて人聞きが悪いですよ。御心配なく、僕も王族ですから」
「はあ……お前が言うと一つも安心できないが、わかった。手配する」
「本人には気付かれないようにしてくださいね。不安がらせたくありません」
「わかっている」
もういいとばかり、エドモンドが手をひらひらと力なく振る。
杞憂に終わればいいが打てる手は打っておきたい。それにエドモンドの推測も的外れではない。
この状況を上手く利用すればルーファスの手札になる。だが、それは今の時点でわざわざ説明することでもないだろう。ルーファスはほくそ笑んだ。
「お、二人ともお揃いで」
次兄のイアンが部屋に入ってきたと思ったら、ルーファスの隣にどっかと腰掛けた。
「ですが、一つ忠告させていただくのなら、イエーナを本当に心配なさるのであれば、この降嫁は考え直した方がよほど彼女の為です。マリア一人だけで社交界に噂が立つはずがありませんからね?」
相手あっての噂である。ゲイルも言っていたではないか、「大人の関係だ」と。それなら、マリアだけを糾弾するのはお門違いだ。それにマリアをあのように扱っておいて、あのゲイルがイエーナのことは大事にするとは考えにくい。醜聞を根拠に判断するならば、イエーナの件も取りやめるべきだ。
「婚約の書類に調印も済ませたのだ、それはできない」
婚約発表の後で特別の理由もなく解消すれば、王家の威信に傷が付く。王命が軽んじられる。たやすく取り下げることはできない。
エドモンドが先ほどの失言に気付いたのだろう、小さく唸(うな)る。 ルーファスは笑みを強めた。言うならエドモンドが気まずい思いをしている今だろう。
「兄上。全てをご存知なら、一つお願いがあるのですが」
「お前が? 何だ、珍しいな……」
エドモンドがぐったりとソファに沈み込んだ。
疲れた様子で「続けろ」とルーファスを促す。ルーファスは早速、騎士団から何人かを融通して欲しいことをその理由と共にエドモンドに訴えた。
「確かに、その可能性は否定できないな」
「ええ、おそらく今が最も危険です。イエーナの為にも、防ぐべきだと思いませんか? それに王家のためにもこのまま捨て置くことはできないでしょう」
「……お前は相変わらず、交渉が上手いな」
「相手の顔色を見る訓練はだいぶさせていただきましたから」
にっこり笑うと、エドモンドがげんなりとため息をついた。
「わかった、期間は」
「結婚式までお願いしたいのですが」
「それは許可できない。あと八ヶ月もあるんだぞ。それだけ長い間、彼らを違う任務につかせれば父上に気づかれる。せいぜいお前がトゥーリスから帰るまでだ。後は自分で何とかしろ。私の裁量で付けるとなると二、三人が限界だな」
「期間は仕方ないですね……、ですが後のことを考えれば、もう二、三人は必要です」
「後のこと? 一体何を企んでいる?」
エドモンドの目が胡散臭いものを見るものに変わる。ルーファスは身を乗り出した。
「企むなんて人聞きが悪いですよ。御心配なく、僕も王族ですから」
「はあ……お前が言うと一つも安心できないが、わかった。手配する」
「本人には気付かれないようにしてくださいね。不安がらせたくありません」
「わかっている」
もういいとばかり、エドモンドが手をひらひらと力なく振る。
杞憂に終わればいいが打てる手は打っておきたい。それにエドモンドの推測も的外れではない。
この状況を上手く利用すればルーファスの手札になる。だが、それは今の時点でわざわざ説明することでもないだろう。ルーファスはほくそ笑んだ。
「お、二人ともお揃いで」
次兄のイアンが部屋に入ってきたと思ったら、ルーファスの隣にどっかと腰掛けた。