拾った彼女が叫ぶから
エミリアがソファから立ち上がったのが、衣擦れの音でわかった。
マリアはルーファスに抱き込まれた腕の中から、おそるおそる顔を上げる。
エミリアは緩く編み上げた髪に、深い宵を思わせる色のドレスの裾を優雅にさばく。背はマリアより拳一つ分高いといったところか。ドレスの色は白い肌と相まって、彼女の少女めいた面差しを儚いものに見せている。エミリアはゆったりとした足取りで、二人のすぐそばまでやってきた。
「威勢の良いお嬢さんね、良くわかったわ」
「ええ、最高でしょう。僕のマリアは」
「もうルーファスもそんな歳になったのね」
「何を仰るんですか、さっきは僕に結婚相手を当てがおうとされたじゃないですか」
「ふふ、そうね。想い合う女性(ひと)がいるんだものね……こっちに来ないわけだわ」
「おわかりいただけましたか、母上」
──え? 何、今の。
想い合う女性というのが自分だとして──自分でそう言うのは自意識過剰かもしれないが、少なくとも自分は彼に全力で気持ちをぶつけたのは間違いないから、半分は正しいはずだ──、だからルーファスが|来ない(・・・)というのはどういう意味だろう。
──ううん、それより聞き捨てならない言葉を聞いたような……!
マリアは思わずまじまじと二人を見比べた。確かに部屋に入ったときから、麦の穂みたいな薄い金色の髪も、琥珀色をした瞳も二人はそっくりだとは思っていたのだが。
ルーファスの腕の中で身じろぎをすると、腕の力が弱まる。すかさず、ひょいと彼の身体から顔を出した。
「もしかして、あの、エミリア様って」
「ルーファスの母よ」
「え、……ええええっ!?」
マリアの視線を受けて、エミリアがにこにこと微笑む。ルーファスもいつものようにへらりと笑うだけだ。ますますマリアは混乱してきた。
答えを求めて彼の表情を探りながら、深呼吸を繰り返す。
よく見るといつもの笑いの中に苦虫を噛み潰したような表情がちらと覗いている。それは本当にわずかな表情の変化だったけれど、マリアは見逃さなかった。どうやら、母子の仲はさほど良いわけではないらしい。
「あの、じゃあパメラ様というのは……?」
「ああ、それも私よ。本名をいじったの。あなた、パメラという女がルーファスと結婚すると聞いて駆け込んできたみたいね?」
マリアはルーファスに抱き込まれた腕の中から、おそるおそる顔を上げる。
エミリアは緩く編み上げた髪に、深い宵を思わせる色のドレスの裾を優雅にさばく。背はマリアより拳一つ分高いといったところか。ドレスの色は白い肌と相まって、彼女の少女めいた面差しを儚いものに見せている。エミリアはゆったりとした足取りで、二人のすぐそばまでやってきた。
「威勢の良いお嬢さんね、良くわかったわ」
「ええ、最高でしょう。僕のマリアは」
「もうルーファスもそんな歳になったのね」
「何を仰るんですか、さっきは僕に結婚相手を当てがおうとされたじゃないですか」
「ふふ、そうね。想い合う女性(ひと)がいるんだものね……こっちに来ないわけだわ」
「おわかりいただけましたか、母上」
──え? 何、今の。
想い合う女性というのが自分だとして──自分でそう言うのは自意識過剰かもしれないが、少なくとも自分は彼に全力で気持ちをぶつけたのは間違いないから、半分は正しいはずだ──、だからルーファスが|来ない(・・・)というのはどういう意味だろう。
──ううん、それより聞き捨てならない言葉を聞いたような……!
マリアは思わずまじまじと二人を見比べた。確かに部屋に入ったときから、麦の穂みたいな薄い金色の髪も、琥珀色をした瞳も二人はそっくりだとは思っていたのだが。
ルーファスの腕の中で身じろぎをすると、腕の力が弱まる。すかさず、ひょいと彼の身体から顔を出した。
「もしかして、あの、エミリア様って」
「ルーファスの母よ」
「え、……ええええっ!?」
マリアの視線を受けて、エミリアがにこにこと微笑む。ルーファスもいつものようにへらりと笑うだけだ。ますますマリアは混乱してきた。
答えを求めて彼の表情を探りながら、深呼吸を繰り返す。
よく見るといつもの笑いの中に苦虫を噛み潰したような表情がちらと覗いている。それは本当にわずかな表情の変化だったけれど、マリアは見逃さなかった。どうやら、母子の仲はさほど良いわけではないらしい。
「あの、じゃあパメラ様というのは……?」
「ああ、それも私よ。本名をいじったの。あなた、パメラという女がルーファスと結婚すると聞いて駆け込んできたみたいね?」