拾った彼女が叫ぶから
 愛の言葉をささやかれた割に少しも安心できないのはなぜなのか。それどころか身に危険が迫っているような気さえする。
 ひっ、とマリアは息を呑んだ。

「僕の妃になってくれますよね?」

 琥珀色の目は、尋ねておきながら返事など一つしかないと決めてかかっている。
 腹が立つ。結局全てが彼の思うがままに動いたような気がしなくもない。悔し紛れに、マリアはまたついつい可愛くない口を叩いてしまった。

「もう返事はしたじゃないの。なんでまた言わせるのよ」
「ははは、安定のマリアですね。まだはっきりは答えてもらっていませんよ。マリアの気持ちをどうぞ」

 綺麗な目だ。その目の中にマリア自身が映る。鼻先が触れ合うほど近い。ルーファスの髪からも、マリアの髪と同じ香りがする。爽やかな柑橘系の香りだ。
 これからずっと同じ香りをまとっていくのだと、そう思ったら、悔しいと思った気持ちがさあっと流れ去った。代わりにいつまでもこんな風に彼の目に映っていたいと思う気持ちがあふれ出す。
 素直な気持ちは、思ったよりも簡単に唇から零れ落ちた。

「……っ、ルーファスの……」
「はい?」
「そばに、ずっと居させてください」

 ルーファスがその途端、満面の笑みを広げた。何かを企むときのものではなく、マリアをからかうものでもなく、心からの喜びが滲み出ている。見惚れるほどにてらいのない笑みだった。
 もっと見ていたいと思ったのに、マリアの身体はその腕に深く抱き締められた。

「良くできました」

 そこはやっぱりどこよりも居心地の良い場所だったから、マリアも素直に彼を抱き締め返した。
 ルーファスがちゅ、ちゅ、とあらゆる場所に唇を落とす。頭の天辺、額、こめかみから頬、唇、そして耳元から首筋へ。そのたびに胸がきゅっと切なく締め付けられて、次いで甘やかなもので満たされていく。
 キスは雨のように降ってきて、マリアの身体を柔らかく溶かした。
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