ブレイン・ハイジャック【ゾンビホラー】

 ──それから、一睡も出来ずに外が白み始めた。本当なら、新聞配達のバイクの音が聞こえてもいい時間帯だ。

 寒空のもと、家にあった毛布やシーツを羽織り外に出る。

「こんな日がくるとは思ってもみなかった」

 犬の散歩をする人も、朝が早い会社員も、家の前を掃除するおばちゃんも誰一人いない。

 放置されたゴミ袋にカラスがたかり、スズメの鳴き声だけが住宅街に響いていた。

 誰もいない世界を思い描いたことはあっても、実際に目にしてみるとその恐怖は計り知れない。

 言い表せない敗北感が全身をかけめぐる。こんなにも自分は無力なのだと思い知らされる。

 ここから逃げ出したい。でも、逃げてどこに行く。

 どこに逃げれば助かるんだ。

「え、やだ」

「なんだこれ」

 早苗と一口はスマートフォンを何度も振ったりして顔をしかめる。

「どうしたよ」
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