Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
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 俺は起き上ると、ベッドサイドの冷蔵庫からペットボトルを取り出した。一気に半分まであけて、大きく息をつく。
「どうしたの、ケイ」
 まだ荒い息を吐く女が、ベッドの中から顔をあげた。

「なにが」
「今日は荒れているのね」
「……そう?」
「そう。でも、強引なのも時には悪くないわ」
 けだるげにそう言って手を伸ばすと、俺の持っているペットボトルを取り上げた。白い喉が動くのを、俺は感情のこもらない目でながめる。

 荒れている……か。そうかもしれない。

「今日、友達の結婚式だったんでしょ? 羨ましくなったのね」
 上目遣いで、意味ありげに含み笑いをする。俺は、気付かれないようにため息をついた。
 そろそろ引き際、かな。
 女がこういうことを言うようになったら、あとはめんどくさくなるだけだ。少し、長くつきあいすぎた。

 今夜限りなら、最後にもう一度。

「強引なのがよかった?」
「ん……すごく、感じたわ。ねえ、もっと乱暴にしてもいいのよ」
 何か確信を得た笑顔で、女が笑う。厚ぼったい唇を合わせながら、俺は、別の女のことを考えていた。
 今日、親友の花嫁となった、あいつのことを。

「……くそっ……!」
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