Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「……さんは?」
「え? あ、ごめん。何?」
 うっかり考え込んでしまった。
「あの、ケイさんは、愛した人はおられますか?」
 やばい、またむせそうになった。

 からかうつもりでなく、本気で言ってるのがわかるからたちが悪い。
 いつも俺が相手にしているような、訳知り顔で愛してるなんて囁く女たちと違って……調子、狂う。

「そうだなあ……」
 俺は、バーテンにもう一杯同じものを頼んだ。やっぱり、全然酔えない。

「恋、は、いくつもしたよ。でも……多分、愛したのは、一人だけだ」
 めずらしく、素直な気持ちが口に出た。普段の俺なら絶対言わない、心の奥底に沈んでいる無意識の本音。どうやら、この子の素直さにつられてしまったらしい。
 多分、この子なら、笑わない。

「おつきあいされていた方ですか?」
「いや。彼女は初めて会った時から俺の親友の恋人で……いつの間にか惹かれていることに気づいても、どうしようとも思わなかった」
「それでも、愛してしまわれたんですね」
 グラスを揺らしてた俺の手が、止まる。

「……うん。愛してた。だから、彼女には、誰よりも幸せになってほしい」
 すんなりと、俺はそう言っていた。
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