Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 そうだ。誰のものかなんてのはどうでもいい。ただ……彼女が幸せでいてくれれば。

 欲しい女は、いつだって手に入れてきた。恋人がいよういまいがホテルへ誘ったし、たいていの女はそれでもついてきた。女なんて、そんなもんだと思ってた。

 けれど、あいつは。

 親友の彼女だから、奪わなかったんじゃない。彼女が望んでいたのは、いつでもレンだけだったから。
 彼女が一度でもレンのことを疑うようなことがあれば、迷わず俺のものにしていた。そうならなかったことが、残念なような嬉しいような。結局、二人とも、俺にとっては大切な人間なんだ。

 自分の欲望を満たすことより、ごく自然に、俺は彼女の笑顔を守ることを選んでいた。ただ、幸せでいてくれればよかったんだ。そんな風に思ったのは、彼女が初めてだった。

 愛してるなんて何度も口にしてきた。……でも、今ようやく、その言葉の本当の意味が腑に落ちた。

 そうか。俺は、あいつを、愛していたんだ。

 うっかりと視界が歪みそうになって、グラスの中のズブロッカを、一気にあおる。
「はは、なんてな。つい華月ちゃんにつられて……えっ?!」
 笑いながら隣の彼女に視線をうつせば、なぜかその目からはぽろぽろと大粒の涙が溢れている。

「華月ちゃん? どうしたの?」
「ご、ごめんなさい」
 もう一枚ハンカチを取り出してしゃくりあげながら、華月ちゃんは言った。
< 11 / 70 >

この作品をシェア

pagetop