Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「その方の幸せを願うケイさんのお顔が、とても幸せそうで……だから、余計に切なくて……」
 その言葉に、虚をつかれた。

「幸せ……俺が?」
「はい、とても」
「…………そ、か……」

 彼女のことを考えると、胸は痛むけれど、その笑顔を守り続けたことを後悔はしていない。
 彼女の中に、俺の居場所もちゃんとあることを知っているから。
 妻となりいつか母となっても、きっと、俺たちは変わらない。変わらずに、俺は彼女の幸せを願える。

 それは、確かに俺の幸せだ。

「そのカクテル」
 俺は、華月ちゃんが飲んでいたグラスを指さす。
「はい?」
「それね、『シンデレラ』って名前なんだ」
「まあ……素敵ですね」

 まだ濡れた目で、華月ちゃんは自分のグラスをまじまじと見つめた。ホント、単純な子だ。話をそらされた事にも気づいていない。
 普段なら、そんなつまらない女、遊び相手にもなりやしない。
 けれど。今日は。

 裏表のない彼女の素直さが、ひどく胸に優しかった。

「ねえ、これから俺が、君に魔法をかけてあげるよ」
「魔法、ですか?」
「そう。今夜一晩だけ、華月は俺の恋人になる。……デートしよう」
 華月が、目を見開いた。

 俺の代わりに泣いてくれた君。俺の幸せに気づかせてくれた君に。
 今夜一晩、シンデレラの夢をみせてあげよう。
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