Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「い、いけません。この服だって買ってもらったのに」
「ふふ。ねえ華月、男がどういうつもりで女に服や口紅を贈るか知ってる?」
 華月は、しばらく首を傾げた後、自信なさげに言った。

「何かの、記念に、ですか?」
 後ろから、控えめに綾が吹き出すのが聞こえた。

 うん、まあ華月ならそんなとこだろうな。
「そう。俺たちが出会った記念のプレゼントだよ。さて、出かけるぞ」
「はい」
 壁にかかった時計をチラリと見上げて、華月は困惑したような顔で頷いた。良い子なら、とっくにおねんねの時間だ。

「怖い?」
「……はい」
「大丈夫。俺がついてるよ」
 言いながら、細い肩を抱く。びく、とその肩が震えた。

 ヤバい、いじめたい。
 むくむくと湧いてきた嗜虐心を、なんとか治める。いじめるには、華月は子供すぎるし、素直すぎる。

「夜の繁華街を知っておくことも、一つの人生勉強」
 そう言うと、は、と華月は顔をひきしめて、持っていた口紅を握りしめた。
「わかりました。がんばります」
 おもしろいなあ。
 これは、思ったより面白い拾いものをしてしまったのかもしれない。
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