Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「初めてでここまでは無理だとは思うけど、やってごらん」
「え、私ですか?」
「そうだよ。次、華月の番」

 俺からキューを受け取った華月がぎこちない手つきでそれを構えるのを、俺は球をそろえながら見ていた。
「こ、こうですか?」
「そう、うまいじゃないか。ほら、力を抜いて。こう……」

 ポーズをつけた華月の姿勢を、背後から手を添えて直してやる。

「そうそう。それから……」

 ふと、目の前の華月の耳が、真っ赤になっているのに気付いた。真剣に前を見ている顔も。
 悪戯心が、頭をもたげる。

「もっと力をこめて」
 俺は、キューを持つ華月の手を、ぎゅ、と握った。頬が触れるほどに、顔を近づけて囁く。声は、低めで。
「一緒にやってみるよ? ……3、2、1、shot!」
 へにゃ、とキューはよれて、玉のはしをかすった。

「残念」
「……ケイさん」
「ん?」
「あの、も少し、離れてください……」
「はいはい」
 俺は、笑いながら素直にどいた。やっべ、楽し。

「あれ? ケイ?」
 ふいに背後から声をかけられて振り向くと、男女の三人組が足を止めている。
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