Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 意識を失った女をそのままにして、シャワーを浴びた俺はさっさと部屋を出る。

 女でも抱けばすっきりするかと思ったが、そうでもなかったな。どこかで飲み直すか。
 近くにあるバーをいくつか頭の中で見繕いながら、ホテルを出た時だった。

「……離してください!」
「んだよ、今さら」
 ホテルに入る入らないで揉めているらしいカップルが、道路の脇で騒いでいた。

「ここまできてぐだぐだ言うなよ」
「でも、あの……ここは……」
 見るともなしに見て、俺は眉をひそめる。

 暗がりで腕を掴まれているのは、いかにも世間知らずといった感じの清楚なお嬢様風の女の子。チャラい男に言葉巧みに誘われて、まんまとホテルに誘い込まれるところか。お気の毒に。

「私、帰ります……」
「ざけんなっ」
 いきなりすごんだ男に、そのお嬢様は肩をすくめた。
 あーあ、だめだありゃ。完全にのまれてる。
「いいから来いよっ」
「……痛っ!」
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