Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 少しだけ大人になった少女は、夜が明けたら、親の決めた見知らぬ相手と見合いをする。通りすがりの俺は、それまでのかりそめの恋人。

 かりそめの、恋。

「こっち」
 俺は、つないだ手をひいて歩き出した。

  ☆

「わあ……」
 そう言って華月は足を止めた。

 こっそりと非常階段を昇って出た古びたビルの屋上。
 繁華街から少し離れたそのビルの周りには、他に高い建物もない。真っ黒い空と、眼下にひろがる煌びやかな瞬きは、息をのむほどに美しかった。

「綺麗……」
「だろ?」
「でも、いいんですか? 勝手に入ってしまって」
「もちろん、内緒」

 かすかなざわめきとクラクションの音。さっきまでの喧騒が嘘のように、そこは静かだった。

「月が、もうあんなところに」
 少し寂しさを含んだ声音で、華月が呟いた。

 星なんか一つも見えない、都会の空。真っ黒なその空の端に、小さく丸い月が地平に落ちそうなっていた。

 夜が、終わる。
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