Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 華月は、その景色を眺めたままかみしめるように言った。
「私、この景色を一生忘れません」

 俺はその背中を見ながら、残酷とわかっている言葉をあえて吐く。
「忘れていいよ」

 俺が言うと、華月はゆっくりと振り向いた。

 戸惑いを見せるその顔に、俺は笑みを浮かべてみせる。
「今夜のことは全部忘れて。結婚、するんでしょ? 君の幸せはそこにある。俺は、そう信じている」
「それは……本気で、言っているのですか?」
「ああ。シンデレラの魔法は一晩だけだ」

 華月は、俺を見つめながら近づいて来る。泣きそうなその顔から、俺は目を離さなかった。

「忘れないと、いけませんか?」
「その感情は、一時的なものだよ。見慣れない世界を見せた俺が、少し、珍しいだけ。ここは、君には似合わない場所だ」
 俺の言葉を遮るように、華月は首を横に振る。

「そんなこと……私、ケイさんが」
「華月」
 俺は、わざとその言葉を止めた。
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