Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「で、今度は俺がここへ連れ込んだらどうする気?」
 華月ちゃんは、困ったようにうなだれた。
「でも……私……」
 思いつめた顔で、ぎゅ、と持っていたバッグを両手で抱きしめる。

 俺は、思い切り大きなため息をついた。

 こりゃ、ほっといたらまた変な男にひっかかるな。仕方ない。乗り掛かった舟だ。
 うっかり、あいつの面影なんか重ねるんじゃなかった。

「わかった。華月ちゃん、お酒は?」
「お酒ですか? 飲んだことはありませんが……」
 ことりと、子供っぽい仕草で首をかしげる。

「いや、そうじゃなくて、華月ちゃん、未成年?」
「……え、と……ち、違います」
 あからさまに視線をそらしたその顔を見て、つい吹き出してしまった。

 嘘のつけない子だな。
 なんでこんな時間に逆ナンしてるか知らないけど、別に俺は補導員じゃないし、高校生がこんなとこでふらふらしてたからって、説教できるほどご立派な人生を歩んできたわけでもない。

 暇つぶしくらいにはなりそうだ。

「俺もちょうど、憂さ晴らししたかったところだし」
「あの、何か?」
「なんでも。よし、行こ。つきあってやるよ」
「! はいっ」
 俺が言うと、薄暗い繁華街にふさわしくない晴れやかな笑顔で、彼女は笑った。
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