最後の男(ひと)
半端に服を着たまま廊下で1ラウンドが終わったあと、士郎に抱き抱えられてベッドで第2ラウンドが始まる。

自分勝手に進めているようで、ちゃんと私の機微を見ながら抑揚をつけている。

士郎に激しく求められると、まるで恋人同士のセックスに思えて嫌になる。熱っぽい声で、一香、って囁かれると居心地が悪くて堪らないのに、私に欲情しているギラついた瞳も、優しい指先も、最奥まで貫く逞しい昂ぶりも、溺れてしまいそうになる。



遠くの方で聞こえるアラームの音がどんどん近付いてくるにつれ、意識が覚醒し始める。ベッドの頭元を探って携帯を見つけると、一先ずアラームを止める。

何度目かの絶頂で気を失って、そのまま眠ってしまったようだった。

この関係になってから、士郎は家には泊まらなくなった。大抵私がまだ眠っているうちにいなくなっているから、始発で帰っているのだろう。

士郎との間に甘さはいらないから、朝目覚めて隣りにいないとひと息つける。出勤の支度で洗面所がかち合うこともないし、キッチンの水棚が汚れた皿でそのままになっていても気が咎めることもない。そんなことを思う時点で、私には同棲も結婚も向いていないような気がする。

< 10 / 53 >

この作品をシェア

pagetop