最後の男(ひと)
それにしても、昨日は何だったのだろうか。
付き合っている彼女と喧嘩でもしたのか、アルコールが入って性欲が増したのか、士郎は何でも話しているように見せかけて、肝心なことは言葉に出すのを控えるようなところがある。
過去に3年付き合って、今の状態になってから2年近くになる。5年分相手のことを知っているはずなのに、未だに分からないことの方が多い。
トーストと目玉焼きで朝食を済ませ、鏡のまえで最終確認をする。
なぜか、セックスをした翌朝は、チークがなくてもほんのりと頬が色付いて血色がいい気がする。一応、その上から薄くピンク色のチークをさすことにして、準備は完了だ。
部屋に向かって、誰ともなしに「行ってきます」と声に出して玄関を後にする。
里中の情報によれば、今日は町屋先輩が一時帰国する予定だ。今から女子社員による狂喜乱舞が目に見えて思わず溜息が出るものの、久しぶりに先輩に会えるのは嬉しかった。
会社に着いたら、マスカラをもうひと塗りしようと思った私も、先輩の帰国にすっかり浮かれている。
「一香先輩、今日はいつもよりメイク濃い目じゃないですか」
社内のトイレでさっそくマスカラを塗り足して部署に入れば、すかさず里中が寄ってきて、開口一番、挨拶もなしに言う。
普段はあっけらかんとした口調の里中なのに、今日は少し棘がある。というよりも、あからさまに不機嫌を装っている。
付き合っている彼女と喧嘩でもしたのか、アルコールが入って性欲が増したのか、士郎は何でも話しているように見せかけて、肝心なことは言葉に出すのを控えるようなところがある。
過去に3年付き合って、今の状態になってから2年近くになる。5年分相手のことを知っているはずなのに、未だに分からないことの方が多い。
トーストと目玉焼きで朝食を済ませ、鏡のまえで最終確認をする。
なぜか、セックスをした翌朝は、チークがなくてもほんのりと頬が色付いて血色がいい気がする。一応、その上から薄くピンク色のチークをさすことにして、準備は完了だ。
部屋に向かって、誰ともなしに「行ってきます」と声に出して玄関を後にする。
里中の情報によれば、今日は町屋先輩が一時帰国する予定だ。今から女子社員による狂喜乱舞が目に見えて思わず溜息が出るものの、久しぶりに先輩に会えるのは嬉しかった。
会社に着いたら、マスカラをもうひと塗りしようと思った私も、先輩の帰国にすっかり浮かれている。
「一香先輩、今日はいつもよりメイク濃い目じゃないですか」
社内のトイレでさっそくマスカラを塗り足して部署に入れば、すかさず里中が寄ってきて、開口一番、挨拶もなしに言う。
普段はあっけらかんとした口調の里中なのに、今日は少し棘がある。というよりも、あからさまに不機嫌を装っている。