最後の男(ひと)
「町屋さんを意識してるのバレバレだし」

図星を指されるのは痛いけれど、今日ばかりはどこの女子社員も色めき立っているのだから、私がそうだとしても取り立てて追及されるいわれもない。

「私なんて、まだかわいい方でしょ。里中だって、浮かれ切った女子社員の姿をここに来るまでに何人も見たでしょ」

「そうですけど、一香さんまでそうなのは気に入らないです」

さらりと今、里中が一香さんと私を呼んだのは聞き逃してあげない。再三言っても直らないけれど、注意するいいタイミングだ。

「一香さんじゃなくて、名字で呼ぶように。私は、いつから里中の彼女になったの?」

「だって、一香さんは一香さんじゃないですか」

もう部署内で名物となっているこのやり取りだけれど、わざと大きな声を出されては、こっちがやりにくくなってくる。

「分かった! 分かったから、せめて先輩の敬称をつけてください」

もうっ、と溜息交じりにうっかり頬を膨らませば、里中が「一香先輩、かわいい」と騒ぎ出す。今分かった。私は懐かれているんじゃなくて、完全に舐められている。

「私言ってなかったけど、年上の大人の男がタイプなの。だから、里中が本気だとしてもそうじゃないとしても、こういうの困る」

「……大人の男というのは、町屋さんみたいな人のことですか」

「そうね。仕事ができて背が高くて優しくて、そういう人が好みなの」

「歳は勝てないけれど、俺だって背は高い方だし、仕事だってもっと頑張ります」

分かりやすく誰もが認める相手なら引き下がってくれるだろうと引き合いに出したのに、今度は張り合ってくる。

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