最後の男(ひと)
「へぇ。一香、俺のことタイプなの。知らなかったな」

背後から聞き覚えのある低音域の声がして、思わず振り返る。

「町屋先輩っ?!」

突然の登場に、私が驚いている隣りでは、里中が「あーっ! 一香って呼んだ!」と、先輩に向かって指を差す仕草が目に入って、慌ててその手を掴む。

「里中! まずは先輩に挨拶でしょ」

「ははっ。面白い子だね。新人さん?」

慌てているのは私だけで、町屋先輩は端正に整った顔をにこりと崩す。三年振りに目にする先輩のイケメンぶりは健在で、頬のラインがよりシャープになって、大人の男の色香がぐっと増していた。

「二年目です。すみません、私が教育担当だったんですけど、仕事はちゃんとできるのに、こういうところが上手くできなくて」

「一香に甘えているだけじゃないの、それ」

ねぇ?、と先輩がちらりと里中に視線を向ければ、一瞬にして顔を赤くする。そんな顔もするんだと、まだまだ子供だったんだ、と思った矢先に、里中の反撃が始まる。

「そうです。俺は一香先輩に甘えています。だって、厳しいこと言うけど可愛いとこあるし、なんだかんだ言って優しくしてくれるし、好きになるなってほうが難しいですよね」

「ふうん。一香のこと、よく分かっているんだな」

「だから、あとから来た町屋さんには、負けませんから」

どうやら里中のなかでは、私が本気が先輩を狙っているという体で話が進んでいるらしい。


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