最後の男(ひと)
翌週、町屋先輩の歓迎会が部署の枠を超えて行われた。私が所属する営業部他、海外事業部や秘書課等、とにかく町屋さんに会いたいという人が各方面から集まったという。

私も勿論出席の予定でいたのだけれど、終業間近になって取引先から呼ばれて技術部門の担当者と一緒に接待という名の営業に出掛けることになった為、飲み会の全容については、接待帰りの電車の中で届いた同期からの連絡網で知る事になった。

会はまさに狂喜乱舞で、終盤になるにつれ女子社員からの争奪戦は凄みを増していったという。なりふり構わずの所業に男性社員はドン引きだったとか。いくら町屋先輩を囲む会とはいえ、彼だけが盛り立てられてはその場にいる男性社員達は立つ瀬がないが、あぶれた女子社員を上手にお持ち帰りしていった男子もいたというのだから、一部はそこそこ恩恵に与れたようだ。

この話には続きがあって、やはり町屋先輩は特定の女子と消えることはなく、みんなで仲良く二次会、三次会へと進んだのだとか。まだ週初めの平日でありながら、参加者達のタフさには敬服してしまう。

私の帰宅を見計らったかのようなタイミングで、町屋先輩から気遣いのメールが届いて、改めて、いい男だなって実感する。

周囲への目配りや気配りは昔から欠かさない。あからさまな善意の押し売りではなくさらりとフォローが入るから、素直に受け留めることができる。一緒に仕事をしていた時は、彼の目の端に映る自分を誇りにさえ思っていた。町屋先輩はただそこにいるだけで、相手に特別感を与えることができる稀有な人だ。

だからみんな、彼と一緒に仕事がしたいし、行動を共にしたいと思うのだろう。一緒にいるだけで、町屋先輩が見えている景色にまで押し上げてくれるから。

< 15 / 53 >

この作品をシェア

pagetop