最後の男(ひと)
「先輩が結婚に対して、昨日今日考え始めた訳ではないのは分かりました」

「先ずはそこからでいいよ。一香もいきなり言われてすぐには気持ちが追い付いてこないだろうし。でも、あんまり深く考えなくてもいいんじゃないか。単純に俺とキスできるかできないか、とか。できないなら、そもそもない話だしな」

「先輩とキスしたくない女の子なんて、逆にいるんですか?」

「そんなの俺に聞かれて分かるかよ。そういうのって感覚っていうか、主観的な問題だろ」

「結婚後のビジョンは現実的なのに、そこは感性に従うんですね」

「生理的なものだけはどうにもならないだろ? 何なら手っ取り早いところで、この後ホテル行くっていうのも一つの案だけど」

「確かに、お互い、自分の気持ちもはっきりしそうですよね」

言いながら、ふと今日は金曜日だから士郎が来るかな? 体キツいな、などと思ってしまう。元カレという名の単なるセフレなのに、あいつは私の生活に密やかに確実に侵入してきている。

不毛だと思いながら、慣れた関係が楽でズルズルきてしまったけれど、始めから将来がない相手といつまで続けていいのか考えあぐねていた。先輩からの思い掛けない提案だったけれど、今後の方向性を決める意味でも良いきっかけを貰ったのかもしれない。

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