最後の男(ひと)
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「あ!」

「おっ! 久しぶり、一香ちゃん」

待っていたエレベーターの扉が開くと、大学の同窓で士郎のサークル仲間だった森君が先に乗っていた。彼は私に利用階を聞いてボタンを押してくれる。

「毎日同じ社内にいるのに、なかなか会わないもんだね」

「本当だね。私も朝から外回りなんて日もあるから、タイミングもあるよね」

「そういえば、こないだ士郎と久しぶりに飲んだんだけど、二人、あれから再会してたんだ?」

まさかセフレやってるなんて言ってはいないと思うけど、下手に嘘を吐いて後々首を絞めることになっても困るから、慎重に言葉を選ぶことにする。

「再会っていうか、偶然ね」

「何度か会ってるの? 士郎の方はより戻したがってたけど」

「えー? 今彼女いるんじゃないの?」

「いや、もう二年以上いないはずだけどな。俺たちのサークル仲間って今でも結構仲良くて定期的に飲み会やってんだけど、あいつから全然女の話出ないし。今思えば、俺たちが嗾(ケシカ)けたのが悪かったんだけど、一香ちゃんと別れた後もしばらく落ち込んでたんだよな」

「嗾けたって……?」

そんな話、士郎と再会してから二年近く経つけど聞いていない。

「まぁ、士郎から言うとは思えないし時効だと思うから告白すると、一香ちゃんが営業に配属になってから、仕事で忙しいって何度もデートドタキャンされてるって落ちてたから、イチかバチか気持ち確かめる意味でも、他に好きな子ができたって言えば改めてくれるんじゃないのって話になったんだよ」

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