最後の男(ひと)
「でも、当時士郎と噂になっていたサークルの後輩がいたでしょ。私だって一応情報収集はした上で判断したつもりだけど」

「あの子は、単に彼氏の相談に乗っていただけ。大学卒業してもお互いの近況が噂で耳に入ってくるくらい狭い世界なんだから、あの士郎がそんな軽率なことする訳ないって」

「もし仮にそうだとしても、今更本人以外から聞かされても……」

「一香ちゃんは、士郎のことどう思ってる? あいつ、町屋さんの一時帰国の話をした時も、普段から飲んでもあんま変わんないのに変なノリでさ。町屋さんて会社でも伝説作ってる人だけど、そもそも高校のOBで、その頃から各方面で有名な人だったらしいね」

その話を聞いて思い当たることがあった。木曜日にふらっとやって来て、早急に体を繋げたがったあの日のことだろう。私が熱を出した時のあのキスも、士郎にとってはちゃんと意味のあるものだったのだとようやく理解する。

「俺たちからの償いじゃないけれど、一香ちゃんのなかで士郎のこと少しでも可能性があるなら、真剣に考えてやってほしい。そして、できれば仲直りしてやり直してくれたら嬉しい、なんて、あくまで一香ちゃんが今フリーだったらって話にはなるんだけどね」

森君がそこまで話したところで、エレベーターは最初の目的地に到着する。

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