最後の男(ひと)
3.最後の恋
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「一香先輩、そのリップ新色ですか? 可愛いですね」

里中はいつも一番に私の違いに気付く。
私にとって、メイクもファッションも自己実現の一つだから、誰かに気付いてもらいたくて手を掛けている訳ではないけれど、褒められるのは素直に嬉しい。

例え冗談でも、私のことを好きだと言ってくれる男がたった一人でも側にいること、その相手が年下の男だということも、女としての自信のようなものに繋がっている。そんな貴重な存在の里中を突き放すことができないのは、私の弱さから。

里中には損な役回りは卒業して、ちゃんと好きになれる女の子を見つけてもらった方がいい。と思った矢先、里中と秘書課の合コンの話が耳に入ってきて、これまでの傲慢な自分を恥じた。

きっと本当の里中は、私が思っているよりも恋の駆け引きができる大人の男で、まだ遊びたい盛りの若者だという事を忘れていた。少し寂しく思う反面、漸く肩の荷が下りる。

町屋先輩からは、その後返事の催促をされたりはしていない。当然ながら、俺を選ぶなら他の男はきちんと清算しろと言われたし、先輩としては私の事情も考慮してくれているのだろう。仕事帰りに二人で食事に出掛けても、結婚の話は一切してこない。だからといって返事を待たせていることは事実だし、きっと士郎との事がなければ、相手は誰であれこんなに迷うことはなかった。

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